【M&Aで戦略目的を達成するために】

~第1回 何のためにM&Aを行うのか~
最終更新日:2022/06/13
日本におけるM&Aの件数はこの10年増加が続いている。2010年には約1,700件程だったが、2020年には約3,700件(図1)に至っている。この数字は大企業も含んだものであるが、中小企業のM&Aも同様に増加の傾向にある。各都道府県に設置されている、中小企業を対象とした事業引き継ぎセンターへの相談社数、成約件数を見ても2010年代に入ってから急激に増加している(図2)。この背景には中小企業の事業承継ニーズが高まっていると共に、M&Aに対する抵抗感が以前よりも軽減しており、その傾向は経営者の年代、都市部・地方問わず同様である(東京商工リサーチ調べ)ことが起因していると考えられ、M&Aにより、事業承継や事業成長を企図する中小企業は今後とも多く存在することが想定される。ただし、言うまでもなくM&Aは事業承継や事業成長等の企業の戦略目的を達成するための手段であり目的ではない。そのため、M&Aの検討の前に自社の企業戦略を明確にする必要性や、M&Aをゴールと捉えず、M&Aの後いかに確実にインパクトを出していくかが極めて重要になる。
事業引き継ぎ支援センターの相談社数、成約件数の推移

図2:事業引き継ぎ支援センターの相談社数、成約件数の推移

本コラムでは、今後3回に渡り、M&Aにより確実に企業戦略を達成しインパクトを出していくために必要な検討点である、
 ・何のためにM&Aを行うのか
 ・そのためにM&Aが最善の手段なのか
 ・実行後戦略目的に向けたインパクトを出すためにPost Merger Integrationを成功させるポイントは何か
という点について考察を試みたい。 特に3点目のPost Merger Integrationの成功は簡単なことではなく、現場への微に入り細に入る対応が鍵となることも生じ得る。その点については3回目で述べさせて頂き、今回は第1点目について記述したい。

何のためにM&Aを行うのか

M&Aは上述の通り様々な企業戦略目的のために行われ、買い手、売り手双方にとって思惑が存在する。その主な目的は以下のように多様である。

 1.	買い手サイド
  (1)	売上げ成長のため
   ・今属する市場で今ある商品/サービスを拡大するためのチャネル、拠点の拡大
   ・今属する市場で商品/サービスを進化させ競争力を強化するための機能、リソースの獲得
   ・今属する市場で競争力を強化するためのバリューチェーンの拡大
   ・今属する市場で多角化を推進するための新たな商品/サービスの獲得
   ・新たな市場に今ある商品/サービスを展開するためのチャネルの獲得
   ・新たな市場に新たな商品/サービスを投入するための新規事業の獲得

  (2)	収益性向上のため
   ・規模を拡大することによるスケールメリットの獲得
   ・主に管理部門におけるコストサイドシナジー
   ・より利益率の高い事業を組み入れることによる利益/キャッシュの獲得

  (3)	純投資
   ・獲得した企業/スタートアップからの配当やキャピタルゲインの獲得

 2.	売り手サイド
  (1)	事業拡大のため
   ・必要な投資を行うための資金調達
   ・チャネル・拠点などの獲得

  (2)	事業継続のため
   ・不採算/低収益事業の切り出しによる利益・キャッシュの確保
   ・後継の経営者の確保(事業承継)
上記のような目的は、当該企業の全体戦略において位置づけられるものであり、まずは企業価値向上、場合によっては生き残りに向けた力強い戦略を確立することが先決である。昨今の、経済環境、人口動態、顧客行動、テクノロジーの激しい変化、その変化を捉え非常に速いスピードで設立、拡大していくスタートアップなどの新たな競合の出現などにより、デジタルディスラプションに代表されるこれまでのビジネスモデルが通用しない脅威にさらされている業界や企業は大企業、中小企業問わず数多い。Fintechによる金融業界への脅威などが代表的なものとして上げられる。また少子化に伴う教育業界における脅威、高齢化による医療・介護費削減といった医療・介護・製薬・調剤業界における脅威、製造業を始めとするカーボンニュートラルへの対応等も昨今のトレンドとして挙げられる。今後労働人口の減少により、働き手の確保がより困難になることも想定される。
既存事業の延長線上、現在有しているリソースで出来ることを前提にした戦略を立てるだけでは事業成長の継続、事業規模の維持、時によっては生き残りさえ難しい企業も増えてくる恐れがある。いかに危機感を持って、現在の変化・将来の動向を捉え、社内の現状・リソースに囚われない戦略策定が必須となってきている。その中の手段の一つとしてM&Aをとらえ、どういった目的の達成のために必要かという観点で議論していくことが望まれる。
              
そのためには、改めて自らの企業が置かれている業界/市場、競合の状況を捉え直し機会と脅威を特定するとともに、自社の現在の強み、弱みから考えて、どのような方向に進めば事業成長できるかということを検討する必要がある。しかしながらその際に自社のみで出来ることを検討すると、取れる選択肢は限られてしまう可能性があり、他社のリソースをM&Aで取り込むことにより、より多様な戦略オプションが考えられる。M&Aも手段に含めて自社の今後の事業成長を検討することが求められるが、この検討をより効果的に行うためには外部からのアドバイスを得ることも有用となる可能性がある。取引のある銀行、税理士、会計士等へ相談することも一つの方法と考えられる。また、当社ライズ・コンサルティング・グループも企業戦略策定のご支援を数多く行っており、中小企業様向けにもそのようなアドバイザリーサービスを他のコンサルティング会社よりもリーズナブルに行っており、ご興味をお持ちの方は一度ご相談頂きたい。
              

ライズ・コンサルティング・グループ
常務執行役員・パートナー 甲斐 健太郎

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